時間をつぶすためだけ、ただぐるぐると回った。
見ないふりをして見る。見ないふりをして様々な人の顔を見る。そこでは様々な人生を思わせる顔が、走馬燈のように流れては消えていった。
幸せそうであったり、疲れを感じていたり、みなぎる自信に溢れていたり、あの人を楽しませるために必死だったり。
多種多様な人生の一つの瞬間に、ふれることが出来ている喜びを、私は感じた。
ふいに、私の目の前に、大きな大きな、それこそ私が見たことがないくらい大きな犬を連れた女性が、ゆっくりと歩き始めた。
私は歩幅をゆるめ、その人の跡をつけるかのごとく、ゆったりとその人を視界に入れながら、そのまわりの風景を見ることとなった。
その犬は大きく、そして気品があった。足を伸ばさなくても、体長は130センチ以上はあるかに見えた。
誇り高い猟犬であることを彷彿とさせるその犬は、ご主人が足を止め、そしてウィンドウショッピングを楽しむその姿を、おとなしく侍して待つのであった。
誰もが振り返った。誰もが振り返り、そして時には声を挙げるものがいた。
その気品の高い、誰もが賞賛する従者を従えたその人は、その犬がいることによって素晴らしく気品に溢れた人に見えるのであった。
誰かが振り返り、声を挙げる。そしてそれに対してぴくりとも表情を変えないその人は、しかし私には分かったのだが、その声に反応していたのである。
誰もが認める価値を手に入れ、そして従わせている自分自身に大きな自信を持っているかに見えた。実際その人は、非常に気高く、そして裕福で知的なのであろう。
私には、そう思えて仕方なかったし、そしてその人を見た誰もが、否応なしにその事実に同意しなければならないほど、彼女の同志は注目を集めていた。
私は、信号を渡った。そしてまたしばらく歩いた。気楽に私もウィンドウショッピングをしようと思った。
そこはブランド品の溢れる街のようだった。残念ながらその価値が全く理解出来ない私は、たしかに品質のよさは認めるが、その値段に閉口するばかりだった。
とりあえず、様々な店に入ってみた。そこには様々な人たちがいた。みなぎる自信があった。時には淡い下心があった。
ときとしてそれは咆哮にみちた表情であり、しかしそれは妄信的なものを信仰する誰かに似ている姿形であると、私には思えて仕方がなかった。
私はまた歩き始めた。様々な人の波のさざ波に、私も紛れて進んでいた。
ふと気づいたことがあった、背の高い外国人と、綺麗な女性の組み合わせが多いことだった。
綺麗な女性は、洗練されていた。ブランド品であるかどうかは私には分からないが、しかしとても綺麗な高そうな服に身を包んでいた。身のこなしは女性であることを思わせ、私は何の否定もなしに、その女性が他の人から羨望を集める人であることが分かった。
男はいつもそれなりにカッコイイ男であった。多少の違和感は感じたが、しかしそれは注意深く見ても些細なものであった。
服の傾向が、女性の好みであることが多かった。実際には私にはそれを断言する能力はないのであるが、しかしそれを断言するのに十分なくらいは、女性は自信に満ちていたし、男の力は比較的小さいように感じた。
別に狙ったわけではないが、あるカップルの後ろをつけるかのごとく、ゆっくりとその二人を見ながら歩くこととなった。
その外人とその女性は、まわりからの注目を集めていた。彼女が店に入ろうとすると、黙って男は、その女性に付き従っていくのであった。
どこまでが、「青山」でどこからがそれ以外なのであろうか。
その街という概念に、そこにいる人たちは引きつけられるのか、それとも縛られるのか。
その街が彼らを作るのか、彼らがその街を作るのか、それともその両方なのか。
一歩大通りを入ると、そこには下町があった。ネオンサインのすぐ裏側、そこは一軒家やちいさなアパートが大量に群れていた。
私でも知っている有名ブランドが並ぶその道のすぐ裏側に入れば、そこは全くその街とは関係ない世界であるかのように見えるのであった。
しかし、その街は高級外車で溢れていた。誰もが知っている車ばかりで溢れていた。
その通りには高級商品とおしゃれな店が建ち並び、そのビル一つ隔てた世界とは別の空間を形成していた。
美しい商品と、美しい店員、美しいビル、美しい町並み、しかし作られたその街は、私には不自然に見えて仕方がなかった。
その価値も分かるし、そこが提供する価値も利便性も理解出来るが、しかしそれらを見る彼や彼女らの目は、何か違うものを感じてしまう。
はりぼてのようなビルによってつくられたこの空間は、一歩先の空間とその内部を完全に差別化し、そこにいるものに特別の地位を与え、そしてそのものたちがまた特別な街を作り上げていっているようだった。
誰もが幻想を共有し、その幻想に身をゆだねることで、その幻想はさらに幻想を共有するものによって熟成され。次第にそれはその幻想を夢見るものを創り出す。
その空間が持つ力は、いつのまにか生まれ、そしていつの間にか消えていく。
その街自体が消えることもあれば、その街の「存在」が消えていくこともある。
青山には、確かに共有されている「存在」があった。
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もうちょっときわどくしようかと思ったのですが、
それだとやり過ぎなのでやめておきました。。
基本的に大通りのビルの表側(大通り側)と裏側(民家側)のギャップが大きすぎるのにちょっと考え事をして書いたものです。
こういうのは「今日の」シリーズかもしれないですね。
きれいな女性は見られることを無意識のうちに意識しています。
私はそういうきれいなお姉さんて大好きですよ。
怖いくらいに完璧。だから尊敬と同時に気圧されたのかも。
たぶん、実は羨望に近いものだったのかもなぁ。
と、今思えば感じるよ。