しかし少し疑問に感じることがある。
インターネット上に残されたコミュニケーションは、我々は見ることが出来る。マスメディアに限らず、我々第三者でも簡単に入手可能な情報である。そこには彼女の内面がパブリックに公開されている。被害者とのコミュニケーションが載せられている。それは我々であっても見ることが出来るのである。
ネットワークやメディア以前において、加害者の発言や行動をトレースすることは不可能であった。プロセス上のコミュニケーション、すなわちある加害者に犯行を決定させるに至った加害者とのコミュニケーション、もしくは、加害者が人を殺すという行為にいたるまでに受けてきた刺激は、記録されてこなかったためである。
しかし、インターネット上には、それらのコミュニケーションの記録を実現した。例えば、PCの中のブックマークなどを見れば、彼や彼女がどのような情報を得ていたか推測することが出来る。もしくは、彼のIDを辿れば、彼の自由な時間、すなわち学校などの規則的な生活環境ではない時間、にどのような刺激を受け、そしてどのような人物とコミュニケーションをしてきたかをトレースすることが可能となる。
記録されなかったコミュニケーション、それは表に出ることはない。どこかしらの研究者が掘り下げてくれるのであれば、事実が浮かび上がってくるかも知れないが、しかし現実的にそれらは記録されない。記録されていないときに、彼や彼女がどのような体験を得てきたかをしることはできないのである。
その結果、比較的収集可能であるインターネット上などの記録された情報が多く収集されるようになる。それ以外の情報が不足している。(現在で言えば本人があまり語りたがらなく、また少年保護の観点から情報が閉ざされている状況)においては、収集可能である情報はさらにメディアの時間枠やページ数を稼ぐために利用される。
結果、記録されてきた情報がメディアに氾濫するようになるのである。
そしてその記録されてきた情報がインターネットなどに偏っているために、インターネットがやり玉になるのである。
完全なミスリードが生じていると私は考える。
同様の文脈は、メディアの影響という文脈にも見ることが出来る。たしかにメディアは、通常の生活では体験し得ないものとして衝撃的な影響を与えた可能性は高い。しかしながら、前述のように、映画や、ドラマ、本など第三者が再度観察可能な出来事の記録と違い、それ以外の状況で加害者が何を感じてきたかどうかなど、第三者には把握不可能である。
メディアというものは、その加害者が疑似体験した状況を第三者であっても、正確にその状況を体験することが出来る。そのため、その疑似体験により、どのような「方向の」影響を受けるかということは計測可能なのである。
しかし、そのメディアを見ているほかの99万人が人を殺すような方向に有意に影響されていない事実があるのにもかかわらず、そのメディアなどが直接的な原因の一部を作っているというような主張をする人間がいる。彼や彼女、受け取る側が特殊であって初めて、中学生が殺し合う映画が特殊な影響を与えるのである。それを把握した上でなければ、論は進まないと考える。
どのような方向の影響を与えるかは、記録されているために把握が容易であるが、しかし受け取る側がどのように受け取るかは記録されないため把握が難しい。そのため、人はどのような方向の影響を与えたかに注目し、受け取る側の特殊性に目を向けることが出来ない。受け取る側の特徴は、女子中学生とのみ認識される。その人がどのような人であったかも、比較的偏った情報が集中しがちであり、その因果関係が無視される。
そしてメディアが悪者と認識されるようになる。
我々はもう少し、記録されていない情報を再確認し、それと同様の文脈線上に記録されている情報を配置するべきなのである。
そうしなくて、我々全員でとんでもない誤解をしたまま、しかしみんなで「そんなはずなくない?」と感じながら生きることになる。
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