2009年02月05日

偶然的必然がもたらしたイギリスの産業革命

(Japanese only...)

 一般的な議論はまったくおいておいて、産業革命がなぜイギリスで起きたかという理由に関して、この国が恵まれていた一点「低地が多くて湿地だらけという点」を軸に一筆書いてみようと思う。
 
 
 

 イギリスには山が無い。低地ばかりで、しかも湿地が多い。もっとも高い山でも1400m無い。そこら中に川があり、なだらかな平地や台地が続いている。これが何をもたらすか、恐らくいろいろな物をもたらしたのだが、実は産業革命にも貢献したのはあまり一般には知られていないだろう。

 太古の昔からこういった湿地が多かったイギリスには、大量の石炭が埋蔵されている。湿地により動植物が朽ち果てずに地中に埋没し、酸素不足の環境下でゆっくりと石炭へと形を変える。この地形的特徴は、石炭の形成に最適なのである。また、これらの土地は多くの川を形成する。そして、この川というものは、太古の昔から生活基盤であり、生産基盤であり、移動基盤なのである。

 産業革命の説明には、イギリスの海外植民地市場の存在、社会、経済的な環境の変化、資本蓄積、資本市場の整備、労働力の増加と都市部への移動などが良く挙げられるが、イギリスには、それと同様か、それ以上に重要な要素があった。それが、この湿地帯という地形を起源とする石炭と川という要素である。

 道路以前、鉄道以前、川は唯一の大量輸送の手段であった。馬二頭で引ける物は荒道であれば1トンが限界だろうが、川を使えば20トンの輸送も可能である。産業革命以前、物資の大量輸送には川が大変重要な役割を果たしていた。イギリスは、それを簡単に手に入れる事が出来た。ちょっと掘れば良かったのである。

 それが、街を作り出した。農村部における農業生産革命がもたらした余剰生産は、都市部に低コストで送り込まれる様になった。食糧生産を行わない人口が生きていくのに充分な物資を提供するインフラを、イギリスは大した投資無くして手に入れることが出来た。

 石炭は、あまりにも大量に埋蔵されていた。しかも日本と異なり、坑内掘りは必要なく、オーストラリアのように露天掘りで大量に安価に提供出来た。しかも、歴史は不思議な連鎖を作り出す。平地を切り開いて農業を展開し、森林を伐採して燃料としていたイギリスは、産業革命前夜にはその森林資源の大部分を消費しつくし、都市部の家庭においてすら石炭ストーブを必要とするようになっていた。安価な石炭は、安価な川という移動手段によって都市部に提供され、イギリス主要部に大規模な石炭供給網を作り上げていったのである。それは、まさに産業革命前夜の事であった。

 時を同じくして、二つの重要な発明が起きる。石炭を基にしたコークスにより鉄を生産するコークス製鉄法が、ワットの蒸気機関と共に時代に登場する。これらは、他の国ではなかなか発達する事は無かっただろう。イギリスは、石炭という他国においては貴重な資源が安価に手に入る状況であったため、イノベーションの最初期における比較劣位を克服出来たという見方もある。圧倒的な石炭のコスト優位が、最初期における新技術の未完成を補完したのである。

 そして、技術は使われる事により、効率が上がり、価格は下がる。次第にイギリスは良質の鋼鉄を生産する様になり、ワットの蒸気機関は改良が重ねられ、産業革命にとって最も重要な生産の動力源の発達、そしてまた移動手段、すなわち鉄道と蒸気船の発達に貢献する。

 イギリスはこの発明をまさしく物にすることが出来た。鉄を作り、そして動力に貢献する石炭を無尽蔵に提供することが出来る環境は整っていた。それは加速度的な鉄道網の発達をもたらし、産業革命を次のステージに引き上げると同時に、イギリスの強大な海軍力の創設とその維持に多大な貢献をした。

 日本の戦後に冷戦と朝鮮戦争があった様に、韓国の復興にベトナム戦争があった様に、歴史にはこのように例えようの無い不思議な流れが存在する。振り返る自分は、その答えの無い出来事の流れを、自由にくみ上げて理解していくことができる。しかし、前を見据える自分は、このような不可解な流れを予期することはおろか、想像する事すら出来ない。

 しかし、だから人生は面白い。そして、人間社会を知るという行為は、奥深い。


 さて、、、ふと書いていて思った。なぜ自分はこんな事を書いているのだろうか。最近特に専門でもない事にふらふらと手を出す傾向がある。またしても長文だし、うむ、もう二時なのでとりあえず寝ることにしようと思う
posted by Cotton at 11:12 | Comment(2) | TrackBack(0) | 学問(studies) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
はじめまして。

イギリス、石炭でネット検索していて辿り着きました。

産業革命と安価な石炭と川という輸送手段の関係、非常に興味深かったです。

1950年代にイギリスがフランスの提案するシューマン・プランに参加しなかったこととも、

どこかで関係しているのか?と思いながら読ませてもらいました。
Posted by K. Fujisaki at 2009年08月17日 01:28
 どこかで関係しているのかもしれませんね。

 ただ、自分の理解ではイギリスにはあまり参加のインセンティブは無かったと思います。

 というのは、シューマンプランは基本的に大戦の原因を幾度となく作り上げてきた希少資源である石炭という原因を取り除く事なので、戦争の危険を今後回避出来るフランス、ドイツ両国に利益があります。そして、石炭を元々あまり持たない周辺国にも利益は当然あります。

 ただ、石炭の産地が北方に密集しそれが領土問題と無関係のイギリスに取っては、誰かと対立している訳ではないし、ドイツとフランスがもめても自国に充分な石炭があるのでどうでも良かったのではないかと思われます。

 今後とも購読よろしくおねがいします。
Posted by cotton at 2009年08月24日 00:36
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