だれもが先進国を目指し、競争した。国の規模を引上げる事に苦心し、そしてそれが実現すれば、その国の構成員の誰もがその恩恵に預かれると誰もが信じていたし、実際そうであった。
実は、世界のGDPトップ100の経済体を並べたとき、すでに2000年の段階で下位50位は先進国の多国籍企業で埋め尽くされていたということはご存知だろうか。このトレンドはさらに続いており、恐らく直近のデータでも同様の現象が確認出来るはずである。そしてこのトレンドは、さらに強まるだろう。企業の合理的な意思決定がもたらす影響力は、すでに世界の国々と対等かそれ以上となると、私は捉えている。
Source: How big are the big multinational companies?
そして、これらの経済体の内部は、比較的統一的なシステムによって統制されており、またユニークな文化を持つ事が多い。そして、特に幹部層、グローバルに活躍する層はまさに世界中を駆け巡って仕事をしている。この内部にはクリアーな統治制度が存在し、この固まりは外部と貿易(販売と仕入れ)を行うし、生産(財も、そして内部向けのサービスも含めて)ももちろん行う。教育制度も存在し、小学生向けのような新入社員研修から、大学生向けのような幹部向けの留学制度まで完備されている。この固まりは、一種の国家であり、社会である。
さらに、世界の大多数の国家、というか旧共産主義国の一部の一部(例、北朝鮮)をのぞき、全ての国家が、特に経済の面に置いてグローバル化する事を是認している現在、今後このような組織。国家の境界の上に乗りかかる様に存在するこの共同体の持つ意味はさらに大きくなる。これらの組織が、国境の垣根を越えて全世界に影響力を及ぼしつつあるのである。
その上、これらの組織は(長期的または短期的な)利益を追求するという目的関数に忠実な組織であるため、理性的で、比較的合理的に動く。もちろん、合理的に考えた上で比較的非合理に見える動きも行う。しかし一般的にみると、組織という回路は彼らに取って正しい選択を長期的に見れば取り続けるといえる。そして、グローバルな競争という厳しい現実が、いくつかの共通した、そして合理的な意思決定に結びついて行くだろうと私は考えている。
例えば。
1。消費者に取って同じ品質であれば、絶えず絶対コストの低い方へ生産は移動して行く。すなわち、いかに距離が遠くとも、例えば日本で生産して提供すると200円かかるものが、生産が遠くにあって諸々追加的にコストがかかろうとも、日本で総額100円で提供出来るのであれば、合理的に考えてその「遠く」に生産は移動する。鮮度が必要な製品や、「その場」で提供しなければ意味の無い製品/サービス、高いレベルでローカライズされた製品を除き、生産は絶えず総コストの低い方へ動き続ける。(もちろんロックインが起こり、動きが止まる事は否定しないが、、、)
2。良い製品、サービス、アイディアに対して、比較的短期間で投資、人材が集まる様になる。その結果として普遍的な価値を持ち、ローカライゼーションのニーズが低い物品とサービスが世界に波及するスピードはこれまでに無く早くなる。ユニークではない商品。全世界的に同じものが提供出来る商品は、比較的短期間で全世界的な競争に簡単に曝される。そして、その価格は一番低いところに落ちていく。競争力の無い企業は、絶えず破れていく。(例えば、衣料、靴、携帯電話、ゲーム機、飲料、化学製品、車、その他あらゆるコモデティ商品、ローテク商品などは対象となり得る。そして価値連鎖の観点から言えば、ITシステム、法務、組み立て、ユーザーサポートなどの製品生産の一部のファンクションも対象と言える。)
3。さらに、グローバル人材と、ローカル人材に明確な区切りがつくだろう。全世界のオペレーションを担える人材を採用する枠と、そうではなくローカルな地域を担当する社員に明確にわかれる。そして企業は、自分たちのルーツに関係なく、ベストの人材をベストの位置に配置するか、それが出来なければ競争に敗れて行く。企業の採用が変わって行く。すでに海外では変わっているのであるが、生まれた時から国際的な環境に過ごし、世界の一流大学で国際的なコネクションを身につけ、新卒入社からグローバル採用として例えば2、3年で三つの地域を経験したような人材がグローバル人材として採用され、ある特定の地域でしか過ごしていない人材はローカル人材としてそのマーケットのみの担当となる。これはキャリアとノンキャリアのようなものだ。たとえ地頭に差がなくともそれに必要な経験と知識を得て来れたかどうかは、若いうちから驚くべきスピードで越えられない壁となっていく。日本企業といえども真のグローバルオペレーションを行うには日本人からグローバル人材を採用していては立ち後れるだろう。全世界から人材を採用する事を目指す(べき)状態になる。
さて、これらが意味する事は何であろうか。私は、このような大きな構造的な変化が、翻って日本の未来に大きな影響をもたらすと考えている。悲しいが、一番あり得るパターンを想像してみたい。私の想像する、このまま進んだ場合の日本の姿だ。
名目で見れば全体のGDPも一人当たりのGDPもゆるやかに減少。今後「日本国として」これまでのような成長を実現する可能性は無い。なぜなら少子高齢化が進み、総人口が減り、そして日本企業のフォーカスは海外に向かい、国内に留まれる一部の高品質コンポーネントなど以外はさらに国外移転が進む一方、そのようなマーケットが海外外資企業にとっての重要市場ではなくなっていくからである。それに生産の自動化、海外からの安い高品質品の流入がさらに追い打ちをかけるだろう。
幸運な事に、東京といくつかの主要都市は全世界ハブの一つとしてこれからも主要都市として残り続ける。それはすでに資産を持つ層、そしてグローバル人材として活躍出来る層が集中して存在するマーケットであり、そして日本という依然として巨大なローカル市場の拠点だからである。東京都のGDPは2005年ではブラジルよりも大きい(都道府県政令指定都市と各国GDP比較 http://www.kotosaka.com/article/110706819.html)。一つの点として考えた時、日本の魅力が下がろうが東京の魅力はまだまだ高い。
そして、日本の一部の富裕層と、グローバル人材としての教育を受けた人材、またはトップクラスのローカル人材は影響を受ける事は少ない。資産は海外にリスク分散され、子弟の教育も海外を目指すだろう。週末はシンガポールかマカオのカジノに遊びにいき、夏の休暇はスイス、冬の休暇はカナディアンロッキーかもしれない。
富裕層の資産は変な事をしなければ減る事は無い。5億円を年間8%で回し、年収4000万円の彼らの資産はグローバルなプールで運用され、後進国の経済成長の恩恵を受けるだろう。戦争で一旦リセットされたが、また階層の半固定化のプロセスが始まる。
グローバル人材は海外のグローバル人材と戦い同じ土俵で争えるだろう。そして、ローカル人材であってもトップクラスの人材は、日本国というそうはいっても大きなマーケットのマネージメントを任され、彼らの所属する組織からそれなりの待遇を与えられる。
国という固まりの上に存在する、企業という固まりに取って有益な人材は、国ではなく企業に優遇される。強い国に所属しそれに認められ続ける人材は生き残る。世界に認められる「お金」という力を持つ人々は、それが世界の成長にあわせて成長していくことで、特に日本の衰退に影響される事は無いのである。
かれらにはそれほど大した問題(少なくとも死活問題では)ではない。
その一方、今資産の無い層であり、かつ、人材としての教育を受けていない層は生活レベルが極端に下がって行く。極論を言えば最終的に国内マーケットを対象としたサービスしか残らない可能性があり、その最悪のケースで言えば、失業率はあがりつづけ、労働の需給バランスの崩壊により、労働環境は悪化して行く。完全な国際競争であり、特に製造業へのインパクトは大きい。海運、空運の発達、世界的な規制撤廃の流れ(例 FTA WTO)、そして情報技術の発展により、さきほども述べたが、どんどん日本国外で出来るものはそちらに移って行く。
教育を充分に受けておらず、しかも産業集積が充分に進んでいない地方はなおさらの事である。農業も、あまりにも規模が小さすぎて、品質が全世界トップクラスであっても販売面でのノウハウもスキルも無い現状では厳しい競争を勝ち抜いて行けるかは議論の余地がある。
良く小泉竹中改革のせいだという人がいるが、個人的にはそれが助長したのは確かだが、どちらかというと世界的な流れが起因する方が大きい様に思える。英語という共通言語が話せないため、日本というマーケットが落ちて行く際に、外に逃げ出すことは出来ない。しかしながら、言語を超えた競争に曝されている産業が海外に逃避して行くか、海外製品との競争で打ち破れて行ったために、生きる場所がない。日本という小さくなって行く市場で戦って行くしかないのである。
恐らく政府は、そのような人々を助けるためにセーフティネットを整備し、それでも生活出来る様に配慮をするのだろう。当然である。それが政府の役割である。
しかし、そのためには税金を高めていくか、無駄な出費を抑えて行くか行かなければ成り立たない。すでに日本の財政に全く余裕はなく、これから先も経済成長の見通しは無いからである。その一方、その無駄な出費というのは実は国内経済を支えており、そして政権を支えているので、押さえるにも切りがある。そもそも、国債の利払いだけで全体のかなりの部分を縛られている現状では、大幅な増税以外にバランスをとれる可能性が無くなるのは目に見えている。
しかし、そのためには税金を高めていくか、無駄な出費を抑えて行くか行かなければ成り立たない。すでに日本の財政に全く余裕はなく、これから先も経済成長の見通しは無いからである。その一方、その無駄な出費というのは実は国内経済を支えており、そして政権を支えているので、押さえるにも切りがある。そもそも、国債の利払いだけで全体のかなりの部分を縛られている現状では、大幅な増税以外にバランスをとれる可能性が無くなるのは目に見えている。
長期的には、日本が大好きか、日本のローカルのお金持ち以外は、それを嫌って海外に主要拠点を移して行くと思われる。それを大歓迎するような国が世界にはごろごろいる。富裕層と優れた人材はどの国に行っても引く手あまてなので、低い税率やもろもろの優遇で、移動して行く人は多いだろう。
もちろん、30年40年はまだそれで持つのだが、それではグローバル人材を国内にアトラクトすることができないため、結局は過去の資産の食いつぶしモデル(すでに資産を蓄えるも、現在はグローバル社会で競争力の無い、ローカルな産業でいきる人々が、他のローカルでいきる貧困層の人々を支えるモデル)となり、長期的に、日本は、過去に身につけた資産を食いつぶすまで、なんとか国内の安定を図るような状況となってしまう。
もちろん、30年40年はまだそれで持つのだが、それではグローバル人材を国内にアトラクトすることができないため、結局は過去の資産の食いつぶしモデル(すでに資産を蓄えるも、現在はグローバル社会で競争力の無い、ローカルな産業でいきる人々が、他のローカルでいきる貧困層の人々を支えるモデル)となり、長期的に、日本は、過去に身につけた資産を食いつぶすまで、なんとか国内の安定を図るような状況となってしまう。
構造的に、日本は今の延長線上ではかなりまずい。しかも一部は生き残るが、一部は生き残らないという状況が目に見えている。
ーーー
さて、これは日本の政治が悪いとか、国の問題とかそういうものではない。全世界的な富のシフトが起きているだけの話しだ。その分、途上国でいきる人は生産が移転し豊かになる。単純に頑張るものが報われる社会になっているだけなのである。
合理的な意思決定の連鎖と、世界の流れ、構造の変化の帰結として、国家という一つの固まりが中にいる全員を守れるような時代は終わろうとしているだけなのである。
そもそも、日本に生まれただけで、大した努力もせずに楽しく暮らせると思っている若者は、世界を見て、貧困を肌で感じて、そこから這い上がろうとしている自分たちと同年代の若者の力と、情熱と、信念に触れるべきとも言える。
毎日15時間労働して、ろくに楽しみもせずに、月に5万円もかせげず、しかもその半分以上を家族に送金しているような若者が、世界には五万といる。ニートが出来るような日本は、まだまだ皮下脂肪の固まりであり、それに安住してしまっているのである。
ただ単に、国が守れる時代ではなくなっているという事だけなのである。日本という国がこのようなグローバルな社会の到来を予見し、それに備えた準備ができた可能性もあったが、私の理解ではもはや手遅れである。手遅れというのは、何かを犠牲にしなければいけないところまできてしまっているという意味である。
日本がどうなるとか、そのように他人に任せていれば自分の人生がどうなる時代は終わろうとしている。それはよくよく現状を分析すればつまびやかになっていくのである。一人一人がその時代に向けた自己防衛の準備をしなければならない時代がやってくる。
日本は、全ての日本国民を守ることは出来ない。それは構造的にもはや不可能に等しい挑戦なのである。
さて、どうするか。。。。それが解れば苦労しない。色々な人がそれを真剣に考えている。私も考え続けてはいるが、その答えは未だ見えない。
追記1:日本国内のグローバル化として記事を書いて頂きました。Thanks!
http://rionaoki.net/2009/12/2373
追記2:時を同じくしてChikirinさんのこの記事の問題意識も近いものがある気がします
http://d.hatena.ne.jp/Chikirin/20091223
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関連するのかなぁ、と思い、でも不勉強なのでよく判らなかったのでお時間があるときにでも教えてください。
1.そもそも何故、日本は世界第二位の経済大国に成り得たのでしょうか?ここで議論されている方法論と同様の構造的な背景によって説明されるものなのでしょうか、それとも他の要因によるものでしょうか?
2.地政学的な観点で日本の位置づけがそうはいっても重要で、そのために一定のところで下げ止まる、見たいな発想はありえますか?
3.昔繁栄して今のんびりな、スペイン/ポルトガルとかそういうヨーロピアンな国々に日本が学ぶ所はありますか?
ばらばらな質問で恐縮です。
クリスマスのドイツ(フランクフルト)は、相変わらず良いですよ:)
1。
戦後だけに絞っても、人口とその増加、冷戦構造と米国の政策、戦前、戦中に蓄積された多くのノウハウと人材、黎明期の官僚統制、成長期の政治的富の配分などなど色々ありますね。。。最も難しい質問です。
2。
地政学的な要因は通信と物流が貧困であった昔のほうが重要であったと思います。物理的な距離の重要性が少しづつ低くなっているのは事実です。一定のところで下げ止まる事は間違いないですが、それが地政学的なものなのかは分かりません。
3。
たくさんあるとおもいます。ただ誰に対してかということでも色々答えは変わってきますね。個人個人に対してであれば、成長成長言ってないで人生楽しもうぜ。になりますし(笑)
また今度ちゃんと書きますね。
では。