2012年03月10日

「日本的経営」がなぜ存在するのか。「日本的経営」はどこに向かうべきなのか


 日本的経営と良く言われる。なぜそれが存在するのだろうか。なぜ「日本」という固有名詞と、起業の行動様式を示す「経営」という言葉が密接に絡み合うように表現され、その表現がこれほどまでに流通しているのだろうか。

 外部環境、すなわち社会、経済、政治環境と組織は相互に影響し合う。社会通念は起業行動に影響を与え (Weber, 1935)、道徳観念、政治、宗教、価値観、その他の社会的要素を反映する社会構造に市場は取り込まれている (Polanyi, 1944, Granovetter, 1985, Block and Fred, 2003)。異なる環境は達成、力、そして従属に対する個々の構成員の異なる欲求につながり(McClelland, 1961)、これらの結果として外部環境はそれが内包する市場と組織に少なからず影響を与える (Aldrich, 1979, Flisgstein, 1990)。成熟した社会構造は特定の方法論や思考方法に正当性を与え、それがゆえにその方法論や思考方法を用いる組織体がその特定環境下において繁栄する可能性を高める (DiMaggio and Powell, 1983, Granovetter, 1985, Oliver, 1997)。すなわち、社会制度はそれが存在する企業と市場の業績に影響を与えるのである (North, 1990, Powell and DiMaggio, 1991, Scott, 2008)。

 このような認識を背景として、なぜ特定環境下において同質的な、または多様な組織構造、文化、行動様式が確認できるのかに関する研究は今も活発である(Streeck and Thelen, 2005)。 数々の社会経済学者が社会構成員としての組織を中心としての分析を試み、そこから環境特性の共通性を見出すことで国家を分類するアプローチが種々存在する (Hollingsworth and Boyer, 1997, Whitley, 1999, Hall and Soskice, 2001)。その共通認識として、制度の集合体である国家間の違いも、その構成員である各国の企業の行動様式に多大な影響を与えていると理解されているのである (Lauder et al., 2008)。「日本的経営」という存在はこのような学術的理解から見ると総体的に理論的に捉えることが出来る。

 しかし、「日本的経営」も変わらなければならない。変わるべきなのである。環境と組織の相互作用の理解は、その特定環境下に存在する行動主体が、逆にどのようにその環境変化に作用しているか、という課題認識につながる (Mantzavinos, 2001)。環境の構成員である組織も、その所属する環境の組成、変容、変化に様々な影響を与えていると理解できる。環境に縛られ、その市場において受動的な立場であると捉えられていた個々の組織は、現代においては複数の環境に偏在する資源を能動的に取捨選択できる存在としても理解されつつあるのである(Garud et al., 2007)。組織は行動的な主体であり、環境と相互作用しつつ数々の異なる環境に存在する資源を再編し、構成することが出来る存在となれる (Crouch, 2005)。社会を変えるような組織、起業家は、その社会を変革するような主体となる。彼らは社会のやり方、社会に存在するその他の構成員の行動様式を、彼らに異なるやり方を示すことで、制度を創りだせる主体と協働することで、存在する資源を再編することで、大幅に作り替えていくことが出来る存在なのである (DiMaggio, 1988, Streeck and Thelen, 2005) 。

 「日本的経営」の呪縛に囚われ、受動的な存在であるのか、それともその「日本的経営」を生み出した外部環境に存在する資源を活用し、そしてその外に存在するその他の資源とも併せて、新たな、競争力のある組織モデルを作れるか、それは個々の組織にかかっている。


参考文献

  1. Aldrich, H., 1979. Organizations and environments Englewood Cliffs, N.J.: Prentice-Hall.
  2. Block, F.F. & Fred, F., 2003. Karl Polanyi and the Writing of "The Great Transformation". Theory and society, 32, 275-306.
  3. Crouch, C., 2005. Capitalist Diversity and Change: Recombinant Governance and Institutional Entrepreneurs Oxford: Oxford University Press.
  4. Dimaggio, P.J., 1988. Interest and agency in institutional theory. In L. Zucker (ed.) Institutional patterns and culture. Cambridge: Ballinger Publishing Company, 3-22.
  5. Dimaggio, P.J. & Powell, W.W., 1983. The iron cage revisited: institutional isomorphism and collective rationality in organizational fields. American Sociological Review, 48, 147-160.
  6. Flisgstein, N., 1990. The Transformation of Corporate Control Boston: Harvard University Press.
  7. Garud, R., Hardy, C. & Maguire, S., 2007. Institutional Entrepreneurship as Embedded Agency: An Introduction to the Special Issue. Organization Studies, 28, 957-969.
  8. Granovetter, M., 1985. Economic Action and Social Structure: The Problem of Embeddedness. The American Journal of Sociology, 91, 481-510.
  9. Hall, P.A. & Soskice, D., 2001. Varieties of Capitalism: The Institutional Foundations of Comparative Advantage Oxford: Oxford University Press.
  10. Hollingsworth, J.R. & Boyer, R., 1997. Contemporary capitalism : the embeddedness of institutions Cambridge; New York: Cambridge University Press.
  11. Lauder, H., Brown, P. & Ashton, D., 2008. Globalisation, Skill Formation and the Varieties of Capitalism Approach. New Political Economy, 13, 19-35.
  12. Mantzavinos, C., 2001. Individuals, institutions, and markets Cambridge, UK; New York: Cambridge University Press.
  13. Mcclelland, D.C., 1961. The achieving society Princeton, N.J.: Van Nostrand.
  14. North, D.C., 1990. Institutions, institutional change, and economic performance Cambridge; New York: Cambridge University Press.
  15. Oliver, C., 1997. Sustainable competitive advantage: combining institutional and resource-based views. Strategic Management Journal, 18, 697-713.
  16. Polanyi, K., 1944. The great transformation : the political and economic origins of our time Boston: Beacon Press.
  17. Powell, W.W. & Dimaggio, P., 1991. The New institutionalism in organizational analysis Chicago: University of Chicago Press.
  18. Scott, W.R., 2008. Institutions and organizations : ideas and interests London: SAGE.
  19. Streeck, W. & Thelen, K. (eds.) (2005) Beyond Continuity: Institutional Change in Advanced Political Economies, Oxford: Oxford University Press.
  20. Weber, M., 1935. The Protestant ethic and the spirit of capitalism London: Unwin Hyman.
  21. Whitley, R., 1999. Divergent capitalisms : the social structuring and change of business systems Oxford; New York: Oxford University Press.


posted by Cotton at 01:16 | Comment(0) | TrackBack(0) | 学問(studies) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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